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映画のおはなし

「人間失格」や「デビルマン」の影を感じる「東京喰種 トーキョーグール」

第二回「東京喰種 トーキョーグール」

  • 情報掲載日:2017.08.27
  • ※最新の情報とは異なる場合があります。ご了承ください。

 人を喰らうモンスターと化した“人間”と、彼らを根絶し、正常な人間社会を守ろうとする国家機関の戦いを描くサーガ。――と表層的なストーリーを聞かされてもまったく新しさを感じられず、むしろ既視感の方が強い。これがヤングジャンプ連載漫画の実写映画化「東京喰種 トーキョーグール」に対しての、正直な僕の第一印象だった。「どうせゾンビものの亜流だろう」と高をくくっていたら、たまたま高校生の娘がコミック全巻を持っていると知り、借りてななめ読みをしてみた。これが意外や意外、寝転がりながらの飛ばし読み、というより飛ばし見だった自分の居住まいがだんだん正され、しっかり台詞の意図を理解したいと思える。展開が分からず、行きつ戻りつ読み直したり、気づけばすっかり熟読モード…。3巻目のあたりになるとあれこれ娘に質問するほど、すっかりこの漫画の世界観に惹き込まれていた。漫画を真剣に読んだのはいつ以来だ?自分の頃の「新世紀ヱヴァンゲリヲン」や「攻殻機動隊」を匂わせるような“セカイ系”で、今では「東京喰種 トーキョーグール」の擁護者であり、真剣な一ファンである。

 勝手な思い込みで言わせてもらえれば「東京喰種 トーキョーグール」の構想を支える原像は、太宰 治と「デビルマン」ではないか?主人公のナイーブな文学少年、金木 研の金木という苗字は太宰の出身地、青森県金木町から取られているし、そもそもファムファタル(魔性の女)ともいうべき年上の妖艶な女性・リゼが喰種(グール)であるとも知らずに彼女のハニートラップにはまり、半人間・半喰種の亜種に転落してしまう冒頭設定は、まさに“人間失格”(笑)!そこから、人間と人間ならざる喰種のはざまで懊悩する金木の心のさまよいが描かれる物語観は、いかにも太宰的自己破滅型の実存主義。カフカも引用され、この石田スイという漫画家はなかなかの文学マニアなのだろうと察せられるのだ。映画では出てこないが、食人に独特の美学を持つ美食家・月山 習はプリア・サヴァランの「美味礼讃」が愛読書だ。文学パロディが随所に垣間見られ、文系の自分にはたまらなく可笑しい。

 善も悪も明確にしない描き込みは僕の世代でいえば、「デビルマン」的世界観だ。ノーマルな人間たちもアブノーマルな喰種たちも、それぞれのコミュニティに多様な考えを持った者たちを抱えていて、一枚岩ではない。誰もがめまぐるしく立ち回り、キャラクター個々、人それぞれに自己が抱えている矛盾に気づいており、それを隠そうとしない。登場人物全員に切実なドラマがあることを匂わすことで、どちらにも共感できるし、どちらにも醜さや嫌悪を感じさせる。鳥瞰的に世界を見据える物語のバランスシートとなるのは、どちらの世界にも属せない主人公・金木。神経質そうな窪田正孝はこの金木役にはうってつけだ。眼帯マスクを着ける時だけ、普段隠している喰種の目がむき出しになる。「逆側から覗く世界は不思議と僕を高揚させる」――金木と同じ気分が味わえる実写版。今後、シリーズ化に期待したい。

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