悠久の刻―巡る季節
山笑みて 紫の風 野に満ちぬ 春ゆく汽車の 影やわらかし…
足元には、カタクリの花。うつむき加減に咲くその姿は、決して華やかではない。さりながら春の光を受けた薄紫の色はひときわ深く、心に沁みてくる。厳しい冬を越え、わずかな一瞬だけ地上に姿を現す小さな命。その儚さ故に確かな季節の訪れを告げてくる。
やがて、遠くからかすかな響きと共に、蒲生岳(がもうだけ)山麓に列車がカーブを描きながら入ってくる。急ぐ事なく、平安の里の呼吸に合わせるように進むその姿は、旅というよりも「帰る」という言葉がよく似合っている。
赤と緑の車体が、春紅葉の色と溶け合い、山の懐へと吸い込まれてゆくその一瞬。風景はゆらめき、そしてまた静寂に帰ってゆく。人の営みと自然の移ろいが互いに主張することなく重なり、悠久の刻を巡り、そして密やかに流れている。
文・写真/星 賢孝
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悠久の刻―巡る季節
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