福島県を巡ると、風景と同じ速度で美味しいラーメン店が現れる。その土地の空気に溶け込むように、それでいて、確かな存在感を放ちながら。
この連載企画では、そんな県内に根付いた1杯を辿っていく。第1回目は石川町。目指すは、『白河中華そば せいくん家(ち)』だ。
オープンは、2024年11月11日。店舗の場所は、野木沢駅(JR水郡線)から徒歩2分弱(約100m強)。
店を切り盛りするのは、原田誠一氏。中華料理の世界で約40年。横浜中華街から一流ホテルの料理長まで務め上げた後、これまでのキャリアを惜しげもなく擲ち、ラーメンの世界へと身を投じた、異色の経歴の持ち主のようだ。
店先には、清潔感が漂う純白の暖簾が揺れる。そこに控えめに刻まれた『白河中華そば せいくん家』の文字が、店主の温和な人柄を物語るかのようだ。そんな11文字の中で、「家」の一文字だけが赤く彩られ、確かな存在感を放つ。
2025年12月現在、提供する麺メニューは、醤油味の「ラーメン」を筆頭に、「胡麻味噌ラーメン」と「塩ラーメン」。そこに、焼豚増し、ワンタン入りといった「白河中華そば」定番のトッピング違いが加わり、想像以上に幅広い構成となっている。
初めて足を運ぶなら、迷わず「ラーメン」を選んでほしい。醤油味こそが「白河中華そば」の基準点であり、その世界観を知る上での入口となる1杯だからだ。
注文を終えた瞬間から、店内にはわずかな緊張が生まれる。厨房に立つ原田店主の所作には、無駄がまったくない。麺を手繰り、湯に泳がせ、スープをすくう。
その一挙手一投足を眺めているうちに、時間の輪郭が曖昧になり、気が付けば丼が完成していた。ほんの5分にも満たない時間が、妙に豊かに感じられる。
丼が卓上に置かれた瞬間、立ち上る湯気の向こうから、鶏の香りがふわりと舞う。鼻腔を柔らかく撫でるその香りは、食べ手に「これは間違いなく美味い」と確信させるだけの説得力を持ち合わせる。褐色に澄んだスープからのぞく、自家製縮れ麺の佇まいも実に端正だ。
スープを口に含んだ瞬間、まず感じるのは、地鶏が持つ芯のあるうま味だ。6種類の地鶏を絶妙なバランス感覚で掛け合わせ、カエシのフィルターを介してもなお、出汁そのものの光沢が明確に感じ取れるほど芳醇。
誇張や演出とは無縁の飾らない美味しさ。その奥には、幾年月もの時が育んだ職人の経験が確かに息づいていた。
カエシも、実に風味鮮やか。鶏油の分量がスープの風味を極限まで引き立たせる塩梅へと調整され、軽やかで澄んだ飲み口が演出できている点も特筆に値する。
自家製麺もまた、申し分のない出来映えだ。軽快な歯切れや弾力を伴う噛み心地が豊かな食感を紡ぎ、存在感を毅然と主張。噛むほどに香りとうま味が解ける厚切り燻製チャーシュー、口腔を優しく撫でるワンタンの衣も、この1杯の魅力を増幅させる、名バイプレイヤー。
2024年に誕生したばかりの新店とは到底思えぬ完成度の高さ。その成熟ぶりに、ただ脱帽するしかなかった。
土日ともなれば、開店から2時間で暖簾が下がることも珍しくないほどの人気ぶりを誇るが、そんなハードルの高さを乗り越えてでも、足を運ぶ価値は十分ある。
皆さんも是非、「白河中華そば」の魅力に身を委ね、至福の時間を愉しんでもらいたい。
Information
白河中華そば せいくん家
- 住所
- 電話番号
- なし(Instagramにて問い合わせを)
- 営業時間
- 11:00~15:00(14:30ラストオーダー)
※スープがなくなり次第終了 - 休み
- 毎週水・木曜日
- 駐車場
- 9台
- リンク
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https://www.instagram.com/seikunchi1111/


