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映画のおはなし

人気舞台を劇作家自らが映画化!昭和の中、懸命に生きた家族の物語

第十二回「焼肉ドラゴン」

  • 情報掲載日:2018.06.24
  • ※最新の情報とは異なる場合があります。ご了承ください。
(C)2018「焼肉ドラゴン」製作委員会
(C)2018「焼肉ドラゴン」製作委員会

 映画と違い、演劇についての知識も経験も月並みなので到底エラそうなことは言えないが、それでも個人的ベストワンを聞かれたら、僕はこの『焼肉ドラゴン』を挙げてしまう。戦後、朝鮮戦争の戦火を逃れて日本に渡り、大阪の片隅で焼肉店を営みながら懸命に生きる在日コリアン夫婦とその娘たちの生き様を見つめた、鄭 義信(チョン・ウィシン)による戯曲。

 僕が鄭 義信を知ったのは今から25年前の映画「月はどっちに出ている」だった。岸谷五朗とルビー・モレノ主演で、タクシー運転手の在日青年とフィリピーナの恋を描いた作品だ。この破天荒なドラマの原作者は梁 石日(ヤン・ソギル)で、脚本を担ったのが鄭 義信だった。この在日作家と演劇人の数々の作品をきっかけに、僕は在日コリアンの日本で置かれてきた社会的・政治的立場の独特さが気になるようになった。さらに、在日コミュニティが濃厚に放つ豊饒な人間臭さと壮絶ともいえる戦後史に興味を抱くようになった。そこから在日文学小説や詩(金 時鐘、金 石範、李 恢成等々)に触れ、魅了されていった。鄭 義信が2008年、新国立劇場で上演した「焼肉ドラゴン」は観ることが叶わず、かなり後で業界の知人が持っていた映像素材で観ることができ、身の奥から揺さぶられたものだ。その「焼肉ドラゴン」が映画になる!しかも、鄭 義信自身の脚本と演出で!

(C)2018「焼肉ドラゴン」製作委員会
(C)2018「焼肉ドラゴン」製作委員会

 「小さな焼肉屋の大きな歴史を描きたい」という構想意図通り、このドラマはある一家族を通じて進んでいく。在日朝鮮人の人々が昭和の日本で生きていくには、どんな艱難辛苦を経なければならなかったか。その壮絶さを、怒りや悲しみではなく、笑いとユーモアというメンタリティーで描き切っている。

 1970年、在日コリアンのバラック長屋が集積する大阪の一角に、龍吉(キム・サンホ)と妻・栄順(イ・ジョンウン)が営む焼肉屋「焼肉ドラゴン」はある。龍吉は朝鮮戦争で片腕を失ったが、日本で栄順と知り合い、結婚。懸命に働きながら、家族を養ってきた。夫婦には四人の子どもがいる。長女の静花(真木よう子)、次女の梨花(井上真央)、三女の美花(桜庭ななみ)に末っ子の時生(大江晋平)。成人した娘たちは、それぞれに事情が複雑だ。梨花は幼馴染の哲男(大泉 洋)と婚約中だが、実は哲男の意中の人は静花であることは周知の事実。静花は昔、哲男が原因で片足に障害を負ってから、人生に消極的になってしまった。美花は勤め先のキャバレーの妻帯者である店長と不倫にあるが、想いは真剣だ。折から大阪万博を控え、日本は好景気真っただ中。役所は「土地は不法占拠だ」と立ち退きを龍吉に迫っていた。北朝鮮への帰還事業を積極的に日本政府が奨励する中、コミュニティの者たちにはそれぞれに人生の選択の時が迫っていた…。

(C)2018「焼肉ドラゴン」製作委員会
(C)2018「焼肉ドラゴン」製作委員会

 日本社会にも帰属を認められず、故国からも曖昧な存在とされた在日コリアンは悲壮な人々ではない。明るさとポジティブさを持ち、家族を大切にする彼らは、まっとうに生きる日本の庶民と何一つ変わりない人々である。それを今作では一家族の歴史を通して、感じさせる。

 鄭 義信の演出は、オールセットで演劇的だ。舞台特有の大声でのセリフ回しやエモーショナルな俳優の動き、同じセットで複数のエピソードが積み重なるストーリー仕立てはドラマの活気を引き立てる。感情の起伏の激しさは「ALWAYS/三丁目の夕日」「フラガール」など、昭和期の人々を肯定的に捉えて広く支持された最近の名作の系譜に連なり、文字通りの一級庶民劇になっている。

 本音でぶつかり合う家族の素晴らしさ、コミュニティの豊かさ、世代間で失われ、薄れゆく地域の絆。そうしたものの価値が改めて見直されるべき今の日本社会に、この戯曲が投げかけるテーマは計り知れない。ラストは涙なしには観られない傑作だ。

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